『北方謙三』先生のおすすめ歴史小説10作をファンが心を込めて紹介します!

作家さんの中で北方謙三先生が一番好きな貧困男子です。

特に北方先生の歴史小説が最高です。

内面までえぐりだすほどの人物描写の細かさ」と「手に汗握る戦争描写」がもうたまりません。

北方先生が書かれている歴史小説は主に日本と中国。

おすすめを紹介していこうと思うのですが、どれも面白すぎて優劣なんてつけられないので、(日本→中国の順番で)時代順に紹介していきますね。

愛が溢れすぎてちょっと長くなってしまいましたが、是非ご一読下さい。

 

「絶海にあらず」のあらすじと感想

京都・勧学院別曹の主、藤原純友。坂東への旅で若き日の平将門との邂逅を経て、伊予の地に赴任する。かの地で待っていたのは、藤原北家の私欲のために生活の手段を奪われ、海賊とされた海の民であった。「藤原一族のはぐれ者」は己の生きる場所を海と定め、律令の世に牙を剥く!渾身の歴史巨篇。
絶海にあらず〈上〉 (中公文庫)より引用

平安時代に起きた「藤原純友の乱」を描いた小説。

当時、絶頂を極めていた藤原北家の一員(傍流)として飄々と暮らしていた純友が、自分の生き方を見つける様が。

そして、その生き方に賛同する仲間が集まり、その夢を叶えていく様が。

この小説にはそんな純友の見事な生き様が描かれています。

最も重要な「なぜ反乱を起こしたのか?」という部分が、純友の心理、そして当時の社会情勢を踏まえ、非常に説得力のある描写がされています。

説得力がありすぎて、これが史実だったんじゃないかと思ってしまう位。

読み終えてからの後味もスッキリでとても読みやすいので、北方小説は初めてという方にもおすすめです。

絶海にあらず〈上〉 (中公文庫)

 

「波王の秋」のあらすじと感想

時代は南北朝。肥前のとある浜辺に一人の男が泳ぎついた。密使だった。済州島のナミノオオは、上松浦党水軍に手を結ぼうと持ちかける。やがて両軍の後押しで、波王水軍が旗揚げされた。若き上松浦党の後継・小四郎を大将として。海を祖国を護らねばならない。熱き思いを胸に秘め、小四郎が立ちあがる。敵は、強大な元朝。そして決戦の時は、今。大海原を舞台に描かれる北方歴史ハードボイルドの会心作。
波王の秋(とき) (集英社文庫)より引用

架空の波王水軍が、3度目の元寇を阻止するため、元の水軍と戦うというストーリー。

一応時代は南北朝時代なのですが、ほとんど日本の話は出てきません。

日本海や東シナ海一帯がメインです。

全く馴染みのない人名と地名のオンパレードなので、最初は中々状況が把握できずに苦戦します。

しかし、波王水軍が創設され、元軍との戦いを始めると…

手に汗握る展開の連続です。

水軍がメインの小説は珍しいですが、かなり面白いですよ。

先ほどの「絶海にあらず」がちょびっとだけ関係してくるのもファンとしては嬉しい限りです。

波王の秋(とき) (集英社文庫)

 

「破軍の星」のあらすじと感想

建武の新政で後醍醐天皇により十六歳の若さで陸奥守に任じられた北畠顕家は奥州に下向、政治機構を整え、住民を掌握し、見事な成果をあげた。また、足利尊氏の反逆に際し、東海道を進撃、尊氏を敗走させる。しかし、勢力を回復した足利方の豪族に叛かれ苦境に立ち、さらに吉野へ逃れた後醍醐帝の命で、尊氏追討の軍を再び起こすが…。一瞬の閃光のように輝いた若き貴公子の短い、力強い生涯。柴田錬三郎賞受賞作。
破軍の星 (集英社文庫)より引用

日本の南北朝時代を扱った小説で、主人公は北畠顕家。

恐ろしく知名度はありませんが、間違いなく南北朝時代の英雄です。

室町幕府を創設した足利尊氏を完膚なきまでに打ち破る等、動乱の時代にまるで彗星のごとく、短く、誰よりも輝いた武将でした。

そんな顕家が存分に才能を発揮する様、人を魅了していく様、そして夢を抱いていく様は、読んでいてワクワクが止まりません。

だからこそ終盤、絶望的な状況でも前を向いて戦う顕家の姿に、読んでいて切なくなってしまいます。

少々物足りないといいますか、もっと続きを読みたい、顕家に生き続けて夢を実現して欲しい、と思わず願ってしまいます。

ですが、これだけ短く太い生涯だったからこそ、これほどまでに輝きを放つのかもしれません。

一度手に取ると、最後まで一気に引き込まれます。

「北方小説初心者にすすめるとしたらどれがいい?」と聞かれたら、間違いなくこの小説が一番ですと答えます。

破軍の星 (集英社文庫)

 

「楠木正成」のあらすじと感想

ときは鎌倉末期。幕府の命数すでに無く、乱世到来の兆しのなか、大志を胸にじっと身を伏せ力を蓄える男がひとり。その名は楠木正成―。街道を抑え流通を掌握しつつ雌伏を続けた一介の悪党は、倒幕の機熟するにおよんで草莽のなかから立ち上がり、寡兵を率いて強大な六波羅軍に戦いを挑む。己が自由なる魂を守り抜くために!北方「南北朝」の集大成たる渾身の歴史巨篇。
楠木正成〈上〉 (中公文庫)より引用

南北朝時代(室町幕府が出来る直前ね)の軍略家として有名な楠木正成を描いた作品。

いわゆる南朝側の「悲劇の忠臣」として人気のある武将です。

この正成を、北方先生は「ただ後醍醐天皇に忠実な武将」ではなく、「自らの夢を叶えようとした男」として描きます。

夢を抱き、鎌倉幕府倒幕の兵を挙げ、さんざんに幕府軍を振り回した正成の姿は、見ていて痛快そのものです。

しかし、正成の夢は潰えます。

物語の終盤は正成が夢に破れ、絶望する様が描かれます。

少し悲しい物語です。

「大きすぎるほどの夢を抱き、そのために命を燃やし、そして絶望してしまった男」として、これでもかという程に正成の内面をえぐった作品です。

楠木正成〈上〉 (中公文庫)

 

「道誉なり」のあらすじと感想

「毀すこと、それがばさら」―六波羅探題を攻め滅ぼした足利高氏(尊氏)と、政事を自らつかさどる後醍醐帝との暗闘が風雲急を告げる中、「ばさら大名」佐々木道誉は数々の狼藉を働きながら、時代を、そして尊氏の心中を読んでいた。帝が二人立つ混迷の世で、尊氏の天下獲りを支え、しかし決して同心を口にしなかった道誉が、毀そうとしたものとは…。渾身の歴史巨篇。
道誉なり〈上〉 (中公文庫)より引用

道誉と足利尊氏の2人の視点で物語が進んでいき、室町幕府成立~観応の擾乱(尊氏と直義との争い)が終結して尊氏が死去するまで。

奇抜なふるまいをしつつも、周到に時勢を読み、様々な手を打ってきた道誉の魅力が余すところなく描かれています。

男に惚れられる男という感じ。

気が付けば周囲の人から頼られているのもよくわかります(道誉を嫌う人も多いですが)。

尊氏の描写がとても的を射ているのが、この小説にすごいリアリティを与えています。

実際、尊氏ってすごい人なのか凡人なのかわからない人で、行動原理も一貫してない印象なんです。

そんなわかりにくい尊氏がとてもよく描かれています。

初期の室町幕府が一番よくわかる作品です。

道誉なり〈上〉 (中公文庫)

 

「武王の門」のあらすじと感想

鎌倉幕府を倒し、後醍醐天皇が敷いた建武の新政も、北朝を戴く足利尊氏に追われ、わずか三年で潰えた。しかし、吉野に逃れて南朝を開いた天皇は、京の奪回を試み、各地で反撃を開始する。天皇の皇子・懐良は、全権を持つ征西大将軍として、忽那島の戦を皮切りに、九州征討と統一をめざす。懐良の胸中にある統一後の壮大な『夢』とは―。
武王の門〈上〉 (新潮文庫)より引用

南北朝の争いがほとんど決着がついた時代に、これほど熱い戦いが九州で繰り広げられていたとは全然知らなかった!

皇子とは言え、ほとんど身一つで九州に入り、そこから全土をほとんど統一するまで戦いぬいた男の生涯が、非常に活き活きと描かれています。

序盤は色んな名前が出てきて混乱しますが、深く考えずに読み進めれば楽しめますよ。

個人的には、このラストはいまいち受け入れられませんでした。

愛着が湧きすぎたせいかもしれません。

皆さんはどうですかね?

武王の門〈上〉 (新潮文庫)

続編(主要人物の息子とか孫とかが出てくる)も出てますので、よろしければそちらも是非。

 

「史記 武帝紀」のあらすじと感想

匈奴の侵攻に脅かされた前漢の時代。武帝劉徹の寵愛を受ける衛子夫の弟・衛青は、大長公主(先帝の姉)の嫉妬により、屋敷に拉致され、拷問を受けていた。脱出の機会を窺っていた衛青は、仲間の助けを得て、巧みな作戦で八十人の兵をかわし、その場を切り抜けるのだった。後日、屋敷からの脱出を帝に認められた衛青は、軍人として生きる道を与えられる。奴僕として生きてきた男に訪れた千載一遇の機会。匈奴との熾烈な戦いを宿命づけられた男は、時代に新たな風を起こす。
史記 武帝紀 1 (時代小説文庫)より引用

漢の領土を最大にした武帝と、その周辺人物を描いた小説。

北方小説特有の、まるで現場にいるんじゃないかと思われるようなリアルな戦争描写、男らしい生き様はしっかりと描かれているんですが、割と独特な立ち位置の作品。

というのも、動乱期ではなく、平和な「漢」という盤石な国家がある時代なので、思うさま才知を伸ばして活躍して…なんてことが難しい時代です。

あんまり目立つと皇帝様に目を付けられちゃいますからね。

組織の中でどうやって生き延びていくかという、官僚的な思考で動く男が多いのです。

そのため、他の作品と比べると、人物がやや小粒に思えてしまうんです。

ただ、そんな中でも自分の生き方を貫こうと男達は戦っているので、しっかりと輝きを放っています。

ある意味、自分の生き方を貫くのは動乱期よりも難しいのかもしれません。

そのあたりがじっくりと描かれていて、初見では「あれ?そんなに面白くない?」と思われた方も、2回、3回と読んでいくと、その面白さがじわじわと感じられると思います。

史記武帝紀(文庫判完結全7巻セット) (ハルキ文庫 時代小説文庫)

 

「三国志」のあらすじと感想

時は、後漢末の中国。政が乱れ賊の蔓延る世に、信義を貫く者があった。姓は劉、名は備、字は玄徳。その男と出会い、共に覇道を歩む決意をする関羽と張飛。黄巾賊が全土で蜂起するなか、劉備らはその闘いへ身を投じて行く。官軍として、黄巾軍討伐にあたる曹操。義勇兵に身を置き野望を馳せる孫堅。覇業を志す者たちが起ち、出会い、乱世に風を興す。激しくも哀切な興亡ドラマを雄渾華麗に謳いあげる、北方〈三国志〉
三国志 (1の巻) (ハルキ文庫―時代小説文庫)より引用

北方三国志の一番の魅力はなんといっても、人物描写の深さ!!

三国志のただでさえ魅力的な武将達が、北方先生の手によって、その個性と魅力にさらなる磨きがかかっています。

「諸葛亮孔明」は完璧超人のような働きをしますが、北方三国志ではとても人間的に悩む人として…

「張飛」は、劉備と関羽を兄としてひたすらに慕い、汚れ仕事や兵士に嫌われる仕事を率先して行い、奥さんにはまた別の愛情を一心に注ぐ、とても愛情深い武将として…

一人一人の心情まで細やかに、そして力強く描かれています。

だからこそ、三国志って蜀が正義の味方っぽく、魏が悪者っぽく扱われてしまいがちですが、魏の武将達も呉の武将達も思わず応援したくなるほど全ての武将が魅力的です。

もう何回読み返したかわかりません。

三国志初めての方から、三国志もう知ってるという方まで、どんな方でも楽しめます!

北方小説の最高傑作です。

文庫版三国志完結記念セット(全14巻)

 

「楊家将」「血涙」のあらすじと感想

『水滸伝』『楊令伝』に脈打つ楊家の魂、ここにあり!
宗建国の英雄・楊業とその一族。過酷な運命のなかで光り輝き、青面獣楊志、楊令にも語り継がれた漢たちの熱き闘い。
楊家将〈上〉 (PHP文庫)より引用

宋建国の英雄である楊一族(楊業と7人の息子)の物語。

もうめちゃめちゃ面白い。

男としての生き様が見事に描かれていて、戦争描写も手に汗握るものばかり。

楊一族もそれぞれが非常に個性的で、感情移入が止まりません。

ただ、ちょっと悲しい物語なんです。

感情移入しすぎた結果、読み終わった後はやるせない気持ちでいっぱいになります。

読み返したりすると、すでに結果がわかっちゃってる分、読んでてつらくなっちゃいます。

ハッピーエンド好きにはおすすめできませんが、面白さは抜群です。

楊家将の続編が血涙です。

楊家将〈上〉 (PHP文庫)

血涙(上) (PHP文庫)

 

「水滸伝」「楊令伝」「岳飛伝」のあらすじと感想

十二世紀の中国、北宋末期。重税と暴政のために国は乱れ、民は困窮していた。その腐敗した政府を倒そうと、立ち上がった者たちがいた―。世直しへの強い志を胸に、漢たちは圧倒的な官軍に挑んでいく。地位を捨て、愛する者を失い、そして自らの命を懸けて闘う。彼らの熱き生きざまを刻む壮大な物語が、いま幕を開ける。
水滸伝 1 曙光の章 (集英社文庫 き 3-44)より引用

水滸伝自体はゲームやマンガになっていたりするので、なんとなく知っている方も多いと思います。

108人の梁山泊の英傑が、腐敗した宋王朝打倒のために戦うという物語です。

それを北方先生流にアレンジしたもので、「水滸伝は全19巻」「楊令伝は全15巻」「岳飛伝全17巻」の合計51巻という超長編。

これがめちゃめちゃ面白いんですよ!

面白すぎてもう読み始めたらとまらない。

主な味方だけでも108人出てくるんですが、一人一人「どんな人物なのか」「なぜ戦うのか」丁寧に描かれているんですよ。

しかも皆個性的。

恐らく水滸伝19巻を読めば、それで108人全員の名前と特徴が言えるようになっているはずです。

それだけ各々のインパクトが強くて魅力的!

それだけの仲間が徐々に集まっていくき、宋王朝を揺るがす存在にまで成長していく様は、読んでいて引き付けられるなんてもんじゃありません!

超長編ですが、読んでいて全く退屈しません。

例のごとく、戦争描写も魅力的なんですが、この水滸伝のすごいところは、兵站の部分まで描いているところ。

軍隊を維持するにはお金が必要ですからね。

でも、梁山泊は反乱軍なので、領土がありません。

じゃあどうやって宋王朝を倒すほどの軍隊を集め、養うだけのお金を手に入れるのか…

そんなところまで描写してあるんですよ。

本当、目に浮かぶほど描写が細かい!

登場人物だけじゃなく、梁山泊全体が魅力的でたまりません。

僕もこの時代に生まれて梁山泊に行きたかった…

長編すぎて中々手を出しにくいかもしれませんが、他の北方作品を読んでみて、気に入ったら是非読んでみて下さい。

間違いなく面白いですから!

水滸伝 文庫版 全19巻+読本 完結BOXセット (集英社文庫)

楊令伝 文庫版 全15巻+読本 完結BOXセット (集英社文庫)

岳飛伝 1 三霊の章 (集英社文庫)

 

以上、北方先生のおすすめ小説たちでした!

是非皆さん読んでみて下さいね。

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