『宮城谷昌光』先生のおすすめ小説20選!各作品の感想とあらすじも!

大好きな宮城谷昌光先生のおすすめ小説を20作ご紹介していきます!

※極力ネタバレしないように書いていきます。

おすすめ度の強い作品はついつい感想が長くなってしまいました…

大分長くなってしましたが、ご一読頂けたら嬉しいです。

時代順に並べました。

 

商王朝時代(成立~滅亡)のおすすめ宮城谷小説

「商(殷)」王朝時代(成立や滅亡)を描いた作品たちです。

実在が確認されている中国最古の王朝であるといこともあり、かなり文献が少ない時代です。

そんな馴染みのない時代を非常にリアルに描いています。

特に「天空の舟」と「太公望」はおすすめです。

 

「天空の舟」のあらすじと感想

商の湯王を輔け、夏王朝から商王朝への革命を成功にみちびいた稀代の名宰相伊尹の生涯と、古代中国の歴史の流れを生き生きと描いた長篇小説。桑の木のおかげで水死をまぬがれた〈奇蹟の孤児〉伊尹は、有しん(草かんむりに辛)氏の料理人となり、不思議な能力を発揮、夏王桀の挙兵で危殆に瀕した有しん氏を救うため乾坤一擲の奇策を講じる。新田次郎文学賞受賞作。
天空の舟―小説・伊尹伝〈上〉 (文春文庫)より引用

まだ実在していたか確認されていない伝説上の王朝「夏」から「商」王朝(殷とも呼ばれる)への交代期を、「伊尹」という半ば伝説上の人物を通じて描いた小説。

そんな圧倒的に資料が不足している「夏」→「商」の時代について、全く知らない人でも親しめるように描かれた小説です。

「地面に呪いをかけられたら、その穢れを払わないと足を踏み入れることが出来ない」とか、「邑(街のこと)に入る時は門から入らないと災いにあう」等、この時代の人々の価値観や宗教観を楽しみながら知ることが出来ます。

その世界観で「伊尹」という主人公がとても魅力的に描かれています。

特に湯(商の君主)に三顧の礼で迎えられ、水を得た魚のように自らの能力を発揮する様なんか特に良いです。

未開の時代を圧倒的な筆力で見事に描き切った名作ですよ。

天空の舟 上下巻セット

 

「沈黙の王」のあらすじと感想

黙せる王は、苦難のすえ万世不変の言葉、すなわち文字を得る―古代中国で初めて文字を創造した商(殷)の高宗武丁を描く表題作。夏王朝初期、天下覇業の男達の権謀術数を記す「地中の火」。周王朝の興亡をたどる「妖異期」「豊饒の門」など。美姫の姿も艶めかしい壮大なロマン。乱世、人はいかに生きるかを問う。
沈黙の王 (文春文庫)より引用

始めて文字を想像した高宗武丁の話を中心とした短編集。

宮城谷先生が漢字に並々ならぬ思い入れがあるためか、かなり力の入った作品になっています。

夏王朝初期を描いた「地中の火」も、未知の世界が広がっていて面白いです。

沈黙の王 (文春文庫)

 

「太公望」のあらすじと感想

羌という遊牧の民の幼い集団が殺戮をのがれて生きのびた。年かさの少年は炎の中で、父と一族の復讐をちかう。商王を殺す。それはこの時代、だれひとり思念にさえうかばぬ企てであった。少年の名は「望」、のちに商王朝を廃滅にみちびいた男である。中国古代に会って不滅の光芒をはなつこの人物を描きだす歴史叙事詩の傑作。
太公望〈上〉 (文春文庫)より引用

殷王朝から周王朝への交代期について、周の軍師である太公望の視点で描かれた小説。

「なぜ太公望は殷王朝打倒に生涯を捧げたのか?」という物語の根幹となる部分がしっかりと描かれています。

太公望の仲間たちのキャラ付けもしっかりしていて、皆が苦難を乗り越えて成長していく様にハラハラドキドキさせられる等、ついつい感情移入させられます。

そして、仲間たちと共に殷王朝打倒に向けて次々と手をうち、太公望がまさに徒手空拳といってよいところから、殷王朝を左右するだけの力を得ていく様は痛快そのものです。

この作品の大きな特徴が、単純な勧善懲悪ものではないというところ。

通常、殷の紂王を描いた場合、妲己という愛妾に溺れ、酒池肉林(贅の限りを尽くした酒宴)や炮烙の刑(業火で熱した円柱に罪人を縛り付けて殺す刑)等、暴虐の限りを尽くした暴君として描かれます。

しかし今作では、むしろ紂王は合理的な改革者として描かれており、今までとは全く違う紂王像がそこにはあります。

「悪いやつは悪い!」と思考を停止するのではなく、当時の宗教観や価値観、社会情勢等をしっかり踏まえた上で、「なぜ紂王は国を失ったのか」が描かれています。

そのあたりの描き方が絶妙でかつ詳細を極めており、物語に深みとリアル感を出していて、非常に面白い作品になっています。

太公望 上中下巻セット

 

「王家の風日」のあらすじと感想

六百年に及ぶ栄華を誇る古代中国商(殷)王朝の宰相箕子は、新興国周の勢力に押されて危殆に瀕した王朝を救うため死力を尽す。希代の名政治家箕子の思想を縦糸に、殷の紂王、周の文王、妲己、太公望など史上名高い暴君、名君、妖婦、名臣の実像を横糸にして、古代中国王朝の興亡を鮮かに甦らせた長篇歴史ロマン。
王家の風日 (文春文庫)より引用

先ほどの太公望と同じく、殷王朝~周王朝への革命期を描いた作品。

こちらは、箕子をはじめとして殷王朝側の視点がメインです。

紂王は「開明的で時代を先取りしすぎた王」という側面を「太公望」よりも強調して、比干は「極めて剛直な人物」として、敵役として悪い面ばかりが強調される殷王朝側の人物をしっかり描いてくれているので、とても新鮮です。

とは言え、かなりの部分が「太公望」とかぶってしまうので、「太公望」の方だけでも十分かなという気はします。

王家の風日 (文春文庫)

 

中国春秋時代のおすすめ宮城谷小説

周が一度滅亡(西周)し、東に遷都してから(東周)が春秋時代の始まりです。

周王朝の基盤が崩れ、徐々に混乱、そして動乱へと向かっていく時代です。

日本の戦国時代が好きな方には間違いなくハマります。

紹介している中では「晏子」が一番おすすめです。

 

「管仲」のあらすじと感想

「管鮑の交わり」で知られる春秋時代の宰相・管仲と鮑叔。二人は若き日に周の都で出会い、互いの異なる性格を認め、共に商いや各国遊学の旅をしつつ絆を深めていく。やがて鮑叔は生国の斉に戻り、不運が続き恋人とも裂かれた管仲を斉に招く―。理想の宰相として名高い管仲の無名時代と周囲の人々を生き生きと描く。
管仲〈上〉 (文春文庫)より引用

管仲が鮑叔と出会うところから物語は始まります。

序盤には管仲が自身の置かれた環境に苦しむ様が、中盤には管仲が斉の公子に仕えて宰相になるまでが、終盤には宰相になり斉を天下の覇者に導くまでが描かれています。

管仲はこの時代の超メジャー人物といっていいのですが、この作品はなぜかそんなに面白くありません(決してつまんないわけじゃないですよ)。

特に、管仲が宰相となってからの物語は非常にあっさりしていて、かなり駆け足で過ぎ去っていきます。

管仲が万能すぎる部分も相まって、少々味気ない印象が強かったです。

とは言え、時代背景について詳細に書かれているので、読んで損することはないと思います。

管仲 上下巻セット

 

「重耳」の感想とあらすじ

黄土高原の小国曲沃の君主は、器宇壮大で、野心的な称であった。周王室が弱体化し、東方に斉が、南方に楚が力を伸ばし、天下の経営が変化する中で、したたかな称は本国翼を滅ぼして、晋を統一したが…。広漠たる大地にくり広げられる激しい戦闘、消長する幾多の国ぐに。躍動感溢れる長編歴史小説全三巻。
重耳(上) (講談社文庫)より引用

重耳の祖父である「称」が、分裂していた「晋」を統一する時代から書き起こされています。

なぜ「晋」という国は「翼」と「曲沃」に分かれていたのか、どうやってそれを統一したのか、その統一までの道のりまでじっくり描かれているので、上巻なんか主人公であるはずの「重耳」がほとんど出てきません。

しかし、野心家で名君といってよい「称」が非常に魅力的で、こちらに息をつかせる間もなく自らの目的のために動き続けるので、思わず一気に読み進めてしまいます。

ここで、重耳が活躍する晋という国の原型が出来るので、この壮大な助走がこの小説の面白さを倍増させています。

中巻は主に父である「詭諸」の時代。

国が統一されたことで、国力を飛躍的に伸ばした晋が大きく武威を発揮していく様は、読んでいて痛快です。

下巻の多くは重耳の放浪生活に費やされています。

この物語のキモとなる部分で、この放浪生活を通じて、重耳だけでなくその臣下たちも、人格・能力ともに多きく成長させ、その個性を徐々に発揮し始めます。

その苦しくもある意味必要不可欠であった時代が、丁寧に描かれています。

個人的には、重耳のキャラクターが意外で、「理想が高い人格者」というイメージでしたが、むしろ「凡人」に近い描かれ方をしています。

優秀な家臣たちに引きずられているような気さえしてきます。

ただ、そんな優秀な家臣たちを19年も苦労させながら、ほとんど離反させなかったその不思議な人徳は、ちゃんと描かれています。

そして、成長した重耳とその家臣団がついに晋に帰国し、天下の覇者となる姿は…もう感無量です。

重耳(上) (講談社文庫)

 

「沙中の回廊」のあらすじと感想

中国・春秋時代の晋。没落寸前の家に生を受けた若者・士会は、並外れた兵略の才と知力で名君・重耳に見出され、混迷の乱世で名を挙げていく。生死を無意味にしないために人はなにをすべきか。勇気の本質とは―。苦難を乗り越え、宰相にまで上り詰めた天才兵法家のあざやかな生涯を格調高く描いた古代中国傑作歴史小説。
沙中の回廊〈上〉 (文春文庫)より引用

文公の即位後から描かれており、上記の「重耳」の続編のような形で読むことが出来ます。

身分の高くないと宰相にはなれない時代に、低い身分から宰相にまで上り詰めた、稀代の兵略家である「士会」を描いた小説。

そんな傑物を描いているので、間違いなく面白い…はずなんですが、個人的にはそこまででもないような気がしています。

その理由は、晋国内での勢力争いを描いた部分が多く、痛快な描写が少ないためじゃないかと思います。

士会は終始、中間管理職的な立ち位置にいるんですよね。

そこらへんが小説としての面白さを損ねているような気がします。

とは言え、そんな難しい立ち位置でも自らの正義を貫きつつ、どの君主からも疎まれないのですから、まさに「徳」を体現したような人物です。

「重耳」を読んだなら、是非読んでみて下さい。

「沙中の回廊」の直後から「晏子」の世界が始まります。

沙中の回廊 上下巻セット

 

「晏子」のあらすじと感想

強国晋を中心に大小いくつもの国が乱立した古代中国春秋期。気儘な君公に奸佞驕慢な高官たちが群れ従う斉の政情下、ただ一人晏弱のみは廟中にあっては毅然として礼を実践し、戦下においては稀代の智謀を揮った。緊迫する国際関係、宿敵晋との激突、血ぬられた政変……。度重なる苦境に晏弱はどう対処するのか。斉の存亡の危機を救った晏子父子の波瀾の生涯を描く歴史巨編。
晏子(一)(新潮文庫)より引用

春秋時代の「斉」の国の貴族である「晏弱(父)」と「晏嬰(子)」の親子を描いた小説。

1~2巻では父の「晏弱」が、苦難に立ち向かい、才覚と人望で道を切り開いていく姿が描かれています。

その苦難にも立ち向かう姿にはハラハラさせられ、その智謀を発揮する様にはワクワクさせられます。

「晏弱」の激動の生涯が活き活きと描かれています。

子の晏嬰が主役となる3~4巻は、戦争で活躍をしたといったような派手な話はほとんど出てきません。

武に優れていた晏弱とは異なり、晏嬰はそもそも身長が著しく低く、武よりも文(内政)に重きを置いた生き方をします。

ですが、全く退屈をすることはありません。

晏嬰が自らの生き方を貫くために、常人には真似のできないほど激しい戦いを繰り広げる様が、鮮やかに描かれています。

その様は、「管仲」と並び称されるほどの名宰相だと称えられるほど魅力的なものです。

そんな晏親子の生涯が描かれた「晏子」、めちゃめちゃ面白いですよ。

晏子〈第1巻〉 (新潮文庫)

 

「夏姫春秋」のあらすじと感想

鄭の美しい公女への、乱世の英雄たちの愛執。 中原の小国鄭(てい)は、超大国晋と楚の間で、絶えず翻弄されていた。鄭宮室の絶世の美少女夏姫は、兄の妖艶な恋人であったが、孤立を恐れた鄭公によって、陳の公族に嫁がされた。「力」が全てを制した争乱の世、妖しい美女夏姫を渇望した男たちは次々と……。壮大なスケールの中国ロマン、直木賞受賞作。全2巻。
夏姫春秋(上) (講談社文庫)より引用

肌を重ねた男達が次々と破滅していくことから、絶世の美女でありながら悪女としても有名な「夏姫」を描いた小説。

ただ、この作品では、基本的に夏姫は受け身。

むしろ、その美しさがゆえに背負ってしまった運命に翻弄されます。

どちらかと言えば周りの男達が主役です。

読んでいるうちはいまいち夏姫というキャラクターがつかみきれず、「何を書きたいんだろう?」という印象でしたが、2回目を読み終えた後に考えが変わりました。

ちょっとわかりにくい部分はありますが、読み込んでいくと案外深みがあって面白いです。

男達の群像劇も全く読んでいて退屈しませんよ。

夏姫春秋(上) (講談社文庫)

 

「子産」のあらすじと感想

信義なき世をいかに生きるか春秋時代中期、小国鄭は晋と楚の2大国間で向背をくりかえし、民は疲弊し国は誇りを失いつつあった。戦乱の鄭であざやかな武徳をしめす名将子国(しこく)と、その嫡子で孔子に敬仰された最高の知識人子産。2代にわたる勇気と徳の生涯を謳いあげる歴史叙事詩。
子産(上) (講談社文庫)より引用

孔子が最も尊敬した政治家と言われており、斉の晏嬰と並ぶ中国春秋時代の代表的な政治家。

そんな子産が生を受けた「鄭」という国は滅亡寸前という有様。

いかにして子産がそこから国を立て直していったのか、そんな難しい時代を子産という人はどのように生き抜いていったのかが、余すところなく描かれた作品です。

鄭という国の内情を、子産の父である「子国」の時代からじっくりと描かれているので、どっぷり感情移入して読み進められます。

唯一不満があるとすれば、(父である子国の時代と、子産が政治を担うまでに大半が費やされているため)子産が政治を担うようになってからの描写が少なく、ややそこに物足りなさを感じます。

もうちょっと書いて欲しかった!

「人とはかくあるべし」という宮城谷先生の信念が、「子産」という稀代の政治家を通じてふんだんに表れた作品です。

ちなみに、時代的には上記の「晏子」とほぼ同じです。

子産(上) (講談社文庫)

 

「呉越春秋 湖底の城」のあらすじと感想

三国志より600年前の春秋戦国時代、誰より魅力的な男がいた。その名は伍子胥。楚に生まれながら、大儀のために祖国をも討ち滅ぼそうとする、大きく強い意志の男。そのスケールの大きさと、その濃密なる生きざま、そして滅びの美学を描ききる「伍子胥篇」、第一弾。20歳の伍子胥が主として立つまでを鮮烈に描く。
呉越春秋 湖底の城 第一巻より引用

優に10巻を超えそうな勢い(現在連載中)の大作。

なのですが、個人的にはいまいち好きになれません。

その最大の要因が、話の展開が非常に遅いところ。

ほとんどの作品が2巻~4巻程度の中、3~4倍くらいの巻数になっているので、その分薄味になってるような気がします。

呉越春秋 湖底の城 一 (講談社文庫)

 

中国戦国時代のおすすめ宮城谷小説

晋が「魏」「韓」「趙」に分裂してから、「秦」による中国統一までをさします。

動乱期であるためか非常に魅力的な人物が沢山出てきます。

中国の三国志とかが好きな方には間違いハマると思います。

紹介している中では「楽毅」が一番おすすめです。

 

「孟嘗君」のあらすじと感想

斉の君主の子・田嬰の美妾青欄は、健やかな男児・田文を出産した。しかし、五月五日生まれは不吉、殺すようにと田嬰は命じる。必死の母青欄が密かに逃がした赤子は、奇しき縁で好漢風洪に育てられる。血風吹きすさぶ戦国時代、人として見事に生きた田文・孟嘗君とその養父の、颯爽たる人生の幕開け。
孟嘗君(1) (講談社文庫)より引用

戦国時代の「戦国四君」の1人、「斉」の孟嘗君(田文)の生涯を描いた作品。

前半は養父である風洪が主人公、中盤は田嬰や孫臏の活躍がメインで、終盤にやっと孟嘗君が活躍する形。

この孟嘗君の時代が面白いのは、「秦」が中国統一を成し遂げる、重要な前振りとなっているところ。

秦を法治国家へ変貌させた「商鞅」、斉の軍制改革を行った「孫臏」等、中国史に多大な影響を与えた超重要人物たちが次々と出てくるので、見逃せない作品です。

ただ、個人的には、どうしても孟嘗君が好きになれなかったです…

しばらくは孟嘗君の出番自体が少なく、終盤にやっと出番が来ても、史実をなぞっただけで駆け足で過ぎ去っていってしまうので、イマイチ感情移入出来なかったんです。

「楽毅」という作品でも孟嘗君は出てくるのですが、そちらでの少々ミステリアスな雰囲気を漂わせた孟嘗君の方が僕は好きでした。

孟嘗君(1) (講談社文庫)

 

「楽毅」のあらすじと感想

古代中国の戦国期、「戦国七雄」にも数えられぬ小国、中山国宰相の嫡子として生まれた楽毅は栄華を誇る大国・斉の都で己に問う。人が見事に生きるとは、どういうことかと。諸子百家の気風に魅せられ、斉の都に学んだ青年を祖国で待ち受けていたのは、国家存立を脅かす愚昧な君主による危うい舵取りと、隣国・趙の執拗な侵略だった。才知と矜持をかけ、若き楽毅は祖国の救済を模索する。
楽毅〈1〉 (新潮文庫)より引用

戦国時代に「燕」で活躍した楽毅を描いた小説。

前半は、大国「趙」からの侵略に、「中山国」宰相の嫡子として、楽毅が悪戦苦闘します。

知恵を絞り、大軍を迎え撃つ楽毅の姿に、思わず手に汗握ってしまいます。

前半の副主人公といってもよい趙の武霊王も魅力的です。

目的に向かって合理的に最短距離を通ろうとするタイプで、わかりやすいところが個人的には好きでした。

楽毅や孟嘗君等とうまく対比させた人物として描かれていて、なんとも示唆に富んだ書き方をされています。

後半は、「斉」に復讐をしたい「燕」の「昭王」に招かれ、そのたぐいまれな軍才を思う存分に発揮します。

弱国である燕が超大国である斉に復讐するため、楽毅が次々と手を打ち、斉を追い詰めていく様にはワクワクさせられます。

前半と後半両方にクライマックスがあり、2度楽しめるのもこの作品のいいとこですね。

楽毅〈1〉 (新潮文庫)

 

「青雲はるかに」のあらすじと感想

戦国時代末期。大望を抱く才気煥発の青年説客、茫雎は無二の親友鄭安平の妹の病を治すべく、悪名高い魏斉(魏の宰相)の奸臣須賈に仕えた。茫雎の襄王への謁見が誤解を生み、魏斉の宴席で茫雎は凄惨な笞打ちにより歯や肋骨を折られ、半死半生のまま簣巻にされ、厠室で汚物に塗れた―。戦国の世を終焉に導いた秦の名宰相茫雎の屈辱隠忍の時代を広壮清冽な筆致で描く歴史大作前編。
青雲はるかに〈上〉 (集英社文庫)より運用

「遠交近攻」策をもって、秦の天下統一に大きく貢献した名宰相「茫雎」が主人公。

復讐心を全面に押し出す主人公というのは、宮城谷先生の作品ではかなり異色(大抵清廉潔白で徳の高い人物ばかり)。

ただ、読み進めていくと茫雎が復讐心だけでない人物だという事がよくわかります。

陰湿さがなく、むしろ復讐心をバネにまっすぐ成長していく姿は、他の英雄たちになんら見劣りするものじゃありません。

茫雎を取り巻く女性たちが多く登場し、うまく茫雎の存在を際立たせているのも本書の特徴です。

しかし、復讐を成し遂げてからの内容には正直不満に感じる部分が少なくありません。

急速に展開が早くなり、人物描写が少なくなって史実をなぞるだけになるので、茫雎がいきなり遠いところに行ってしまった印象を受けます。

また、終盤には茫雎が宰相として行き詰っている描写が多く、「茫雎ってホントに名宰相だったの?」という気さえしてきます。

基本的には面白いんですが、ちょっともったいないなーと思う作品です。

青雲はるかに (上)(下)巻セット (集英社文庫)

 

「奇貨居くべし」のあらすじと感想

秦の始皇帝の父ともいわれる呂不韋。一商人から宰相にまでのぼりつめたその波瀾の生涯を描く。多くの食客を抱え、『呂氏春秋』を編んだということ以外、多くの謎に包まれた呂不韋に、澄明な筆致で生命を与え、みごとな人物像を作り上げた、六年半に及ぶ大作。
奇貨居くべし―春風篇 (中公文庫)より引用

全5巻なんですが、すごい順番がわかりにくい。

①春風篇→②火雲篇→③黄河篇→④飛翔篇→⑤天命篇ですよ。

呂不韋には、「目的のためには手段を選ばず」タイプのイメージがありましたが、明らかに宮城谷先生はそれを覆そうとしているように思います(賛否両論ありますが)。

呂不韋と始皇帝との思想の違いについては、かなり読みごたえがあります。

なによりとても新鮮な呂不韋像です。

個人的には、ちょっと美化しすぎな感じがして引いてしまいましたけど…

奇貨居くべし―春風篇 (中公文庫)

 

楚漢戦争時代のおすすめ宮城谷小説

始めて天下統一した秦が倒れ、項羽(楚)と劉邦(漢)が天下をかけて争った時代です。

人口が半減したと言われるほどの大戦争だったため、さまざまなドラマが生まれた時代でもあります。

紹介した中では「香乱記」が特におすすめです。

 

「香乱記」のあらすじと感想

悪逆苛烈な始皇帝の圧政下、天下第一の人相見である許負は、斉王の末裔、田氏三兄弟を観て、いずれも王となると予言。末弟の田横には、七星を捜しあてよという言葉を残す。秦の中央集権下では、王は存在しえない。始皇帝の身に何かが起こるのか。田横は、県令と郡監の罠を逃れ、始皇帝の太子・扶蘇より厚遇を得るのだが……。楚漢戦争を新たな視点で描く歴史巨編、疾風怒濤の第一巻。
香乱記(一)(新潮文庫)より引用

作者の宮城谷先生が「理想像」と称えるほどの男で、知・仁・勇すべてを兼ね備えた男、田横を描いた小説。

物語は、秦の始皇帝時代から始まり、劉邦による天下統一で幕を閉じます(文庫本だと全4巻)。

この小説の一番の特異性は、何と言っても「田横という、項羽でも劉邦でもない人物が主人公である」というところ。

基本的には、武が優れていても徳に欠ける項羽を、特にこれといった長所はなくとも徳がある劉邦が、優秀な部下たちをうまく使いこなして打ち破る、というのが共通認識だと思います。

ですがこの小説においては、田横の視点から、項羽だけでなく劉邦もこき下ろされています。

特に劉邦は、人を騙し続ける徳の薄い人物として描かれており、劉邦に対する見方が変わることは間違いありません(ヘタしたら嫌いになります)。

正直なところ、田横を「理想像」と言うのはちょっとよいしょしすぎな気がするんですが、それでも田横を中心としたこの物語はとてもワクワクして面白かった!

田横の兄達や、田横を一心に慕う部下達と、魅力的な人物が沢山出てきたからだと思います。

彼らの危機にはハラハラさせられたし、信義のために率先して泥をかぶる時にはじれったく、でもその言動には感動させられて…

文句なしの名作だと思います。

香乱記〈1〉 (新潮文庫)

 

「劉邦」のあらすじと感想

秦末、王朝を覆す「天子の気」を遠望した始皇帝は、その気を放つ者を殺すように命じる。配下に襲われた泗水亭長・劉邦は、九死に一生を得る。始皇帝の死後、陵墓建設のため、劉邦は百人の人夫を連れて関中に向かうことを命じられるが…。三国志より遡ること約400年、宿敵・項羽との歴史に残る大合戦を制した男の全く新しい人間像を描き出す、傑作長編小説の誕生!
劉邦(上)より引用

個人的には大いに不満が残る作品でした。

「香乱記」では、劉邦を「信義に欠ける男」として表現されていたはずが、こちらでは一転して「義を重んじる男」に…

どっちやねん!!

劉邦も田横や楽毅等と同じような清廉潔白な人格者として描かれていて、違和感がすごい。

先に「香乱記」読んでなければここまでは感じなかったと思うので、読むのでしたらどちらかにされた方がいいと思います。

劉邦 (一) (文春文庫)

 

後漢王朝時代のおすすめ宮城谷小説

後漢王朝の建国から三国志の時代まで。

三国志は有名ですが、後漢王朝の建国期も案外面白いですよ(劉邦が建てたのは前漢)。

 

「草原の風」のあらすじと感想

父の死により、叔父に引き取られ、使用人とともに田で働く劉秀。高祖・劉邦の子孫でありながら、鮮明な未来を描くことができぬ日々を過ごしていたが…。三国時代よりさかのぼること二百年。古代中国の精華・後漢王朝を打ち立てた光武帝・劉秀の若き日々を、中国歴史小説の巨匠が鮮やかに描きだす。
草原の風(上) (中公文庫)より引用

この時代を取り上げた小説は珍しいですよね。

そもそも、劉邦が建てた「漢」という国が王莽に滅ぼされて、一時期「新」という国になっていたこと、そして劉秀が再度漢を建国した(後漢という)こと自体、あまり知られていません。

そんな時代を劉秀の視点から描いた作品。

宮城谷先生の描く主人公って品行方正で人徳に溢れるタイプが多いんですが、劉秀は「才能より人格を重視した」と言われるほどの皇帝で、まさにドンピシャ。

全く知らない時代で先入観を持っていなかったためか、「本当にこうやって後漢という国が建国されたんだなぁ」とすんなり入っていきました。

手に汗握る戦の数々、そして反乱軍の1武将から皇帝に成り上がる様が、物語として非常に面白かったです。

劉秀が天下の半分を得るまでは非常に丁寧に描かれているんですが、そこからは急に駆け足になります。

まぁその時点で事実上天下は平定されたから、描く必要はないってことなのかもしれませんが、そこだけちょっと物足りなかったです。

そのあたりは、「呉漢」で描かれているようなので、気になる方はそちらをどうぞ。

草原の風(上) (中公文庫)

 

「呉漢」のあらすじと感想

ただの小石が黄金に変わることはあるだろうか。貧家に生まれるが、運命の変転により、天下統一を目指す劉秀の将となった呉漢。時代が生んだ最高の知将・呉漢の生涯を描く!
呉漢 – 上巻 (単行本)より引用

※ごめんなさい。文庫本が出るの待ってるところです。

 

「三国志」のあらすじと感想

三国志は主に、「演義」(劉備とか孔明が主人公で結構脚色されてるやつ。吉川栄治先生の小説や横山光輝先生のマンガとか)と呼ばれるものが日本では有名です。

しかし、実は正しい三国志は「正史」の方。

これまでにも正史を基にした三国志小説はいくつか発売されているのですが、宮城谷先生の三国志はその詳細さと正確さにおいて他を圧します。

「正しい三国志を知りたい!」という方には、宮城谷三国志がおすすめです!

三国志の小説と言えば「後漢末期の黄巾の乱」から描いている作品がほとんどの中、宮城谷三国志はなんと「後漢中期」から描かれています。

そのため、黄巾の乱に至るまでの後漢王朝が混乱ぶり(なぜ宦官があれほどの権力を握るようになったのか等)がよくわかります。

また、登場人物の評価が今までの三国志と違うことが多いので、有名武将の意外な一面を知ることが出来たり、名前も知らないような脇役武将が意外に活躍してたりと、三国志をすでに知っている人でもすごく楽しめる小説ですよ。

ただし、1巻は正直お世辞にも読みやすいとは言えないので、途中で諦めないで下さいね!

三国志〈第1巻〉 (文春文庫)

 

以上、宮城谷昌光先生のおすすめ小説20選でした。

是非皆さんも読んでみて下さいね。

 

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